研究室日誌2010.8.12-15
フィリッピン、ラグナ湖の現地調査と研究打合せ
本年度より総合地球環境学研究所の研究プロジェクトとして嘉田良平教授(このプロジェクトの遂行のため横国大から地球研に主たる所属を移動)を代表者とする「東南アジアにおける持続可能な食料供給と健康リスク管理の流域設計」が今年度よりフィージビリティスタデイからプレリサーチへと進展した。この中では、アジア農業・漁業の現場で起こっている生態系の破壊、水質汚染、洪水の多発などさまざまな異変に関して、その過程で生じているさまざまな「食と健康のリスク」に注目した研究を行う予定である。事例としてフィリピンのラグナ湖流域を対象とし、食料供給と人の健康に関わる生態リスク拡大メカニズムの解明に基づき、流域の総合的なリスク管理の提示を目指している。
今回の現地調査では、共同研究先のフィリッピン大学やラグナ湖開発公社のメンバーと研究会を開催すると共に、ラグナ湖を一周する現地視察を行った。この中で、フィリッピン側からは、湖における鉛や水銀などの重金属汚染の調査の必要性が述べられた。我々が入手できている既存情報からは、汚染は懸念されるレベル(魚類などで、先進国の基準を超えるという意味)であることを示すものも散見されるが、他方低濃度を示すデータもあり、全貌を把握できていない。その意味では、調査は必要だろう。しかし、今回の視察から見えたのは、そういった汚染による人健康リスクより重要なのは、湖の周辺に多数存在する不法居住者の生活環境であった。いったん台風が来れば水没する低湿地に、何万人という住民がバラック建ての家を建てて住んでいる。水道も下水道もない状態である。異様なのはそういった不法占拠地の中に、コンクリートの2階建ての上流階級のような館も存在することである。このような不法居住者(フィリッピン側の研究者はillegal settlerでなくinformal
settlerと呼んでいた。微妙な状況が反映しているようだ。)を票の地盤とする政治家もおり、危険な場所から立ち退きは一向に進まないそうだ。このような、社会的な状況をどのように研究対象にするか、これからである。
写真1 ラグナ湖流域低湿地の居住→拡大
写真2 ラグナ湖から流出する水路岸低湿地の住居→拡大
写真3 ラグナ湖の魚を道ばたで売っている人々→拡大
写真4 ラグナ湖に広がる養殖生け簀→拡大
写真5 フィリピン大学での研究会→拡大
総合地球環境学研究所 → http://www.chikyu.ac.jp/index.html
東南アジアにおける持続可能な食料供給と健康リスク管理の流域設計 →http://www.chikyu.ac.jp/rihn/project/PR-02.html