63.-2007.10.09「大阪府三箇牧水路におけるダイオキシン汚染の原因究明」
2007年9月18日に大阪府が「三箇牧水路底質汚染に関する検討結果報告書」を公表した。報告書の特徴は、ダイオキシン類汚染の原因者の推定まで行った点である。この検討に加わったので、簡単に報告したい。
三箇牧水路のダイオキシン汚染の発見の経緯
神崎川の新三国橋では、ダイオキシン類の常時監視の開始(H12年)以降継続して水質環境基準値を上回っていた。上流域に遡り追跡調査が進められてきた結果、番田水路北江口橋で高濃度が検出されたため、番田水路の影響が考えられた。さらに、番田水路に合流直前の三箇牧水路で55 pg-TEQ/Lが観測され(H17年1月)、さらに、三箇牧水路内の3地点における底質調査で、最高11,000 pg-TEQ/gの汚染が見つかった(H17年11月)。この高濃度の底質が番田水路の水質に影響し、さらに下流にまで影響を及ぼしていると考えられた。
三箇牧水路の状況と汚染底質の除去
三箇牧水路は、淀川から取水し淀川右岸の田園地帯に配水した後、農業排水を受け入れ、北東から南西に流下する幹線排水路であり、最下流で番田水路に合流している。流域は都市化が進んでいるが、下水道は一部の地域しか普及していない。昭和30年代から工業用水として地下水を大量に汲み上げたため地盤沈下が進み、水路の疎通能力が低下し、排水不良が発生したため、各所で水路改修や排水機場の整備などが行われてきた。特に、鳥飼北部地区の三箇牧水路は降雨時の水位上昇が激しく、農地等に湛水被害を及ぼしていたため、平成17年度までに大阪府はまちづくり水路整備事業として、排水機場および逆流防止用のゲートを新設した。
排水機場完成に伴い、大雨時に排水機を稼動させると、上流の高濃度底質を吸い上げ放流先の安威川に汚染を拡散するおそれがあるため、上流部の汚染底質除去が急務となった。そこで、大阪府が主体となり袋詰脱水処理工法等により、汚染底質が脱水・袋詰めされ、最終的な処分方針決定までの一時的な措置として、水路わきに地中密閉保管された。除去底質の体積は約310 m3である。
三箇牧水路の汚染調査と原因者の特定
汚染底質の除去に先立って、水路の底質汚染の詳細な調査が行われた。その結果、底質のダイオキシン類濃度は廃棄物処理を業とする事業所(D社)から下流で急激に上昇していること(最大濃度は44,000 pg-TEQ/g)、高濃度汚染は高塩素ジベンゾフランの割合が高く、またco-PCBではPCB製品による汚染に比べてPCB-126、169、189などの組成割合が高いなどの特徴があることが明らかになった。
汚染源となりうる水路周辺の事業所について敷地内の排水管や排水路に残っている汚泥や堆積物の調査が行われた。その結果、D社の排水管内付着物から非常に高濃度(720,000 pg-TEQ/g)のダイオキシン類が検出され、かつ水路の底質ともダイオキシン類組成が類似していた。さらに、D社の排水の会所の汚泥からも、ダイオキシン濃度はそれほど高くないものの、河川底質と組成が似た汚染が見つかった。
このような状況から、D社についてさらに詳細な立ち入り調査が行われ、当該事業所内の過去に湿式洗煙装置が存在した煙突付近や排水管内から試料が採取されたが、これらからさらに高濃度(820,000 pg-TEQ/g)の汚染が見つかった。また、汚染底質とダイオキシン組成も類似していた。これらのことから、底質汚染の主原因となった汚染物は当該事業所に設置されていた湿式洗煙装置から排出されたと推定した。
当該事業所は廃棄物の焼却を業としているが、湿式洗煙装置は平成3年1月から平成13年7月まで稼動しており、現在は設備改善により高濃度のダイオキシン類は生成されていないことから、汚染物の排出は平成3年から平成13年までの期間だったと推定された。
今後と教訓
今回の検討で原因者と推定されたD社は、平成13年8月に湿式洗煙装置による排ガス処理からバグフィルターによる乾式集じんによる処理に改善しており、現在は基準値以下になっている。汚染の大部分はダイオキシン規制が始まる以前に起こったと考えられるが、汚染底質の対策にかかった費用の一部については、大阪府が汚染者に負担を求めることになると見られる。
大阪府は「ダイオキシン類に関する環境対策検討委員会」の中に、平成18年9月に「底質対策専門部会」を設置し、汚染の対策方法と原因究明を開始した。この部会の設置時から私もこの事案に係わることになったわけであるが、その時点では、汚染原因者を特定できるかは全く予断を許さない状況であった。すなわち、汚染は過去に起こったと推察され、その証拠が現在も事業所内に残っているかは疑わしいと考えられたからである。過去の汚染であるにもかかわらず、事業所内で高濃度の汚染の存在を見つけ出すことができ、しかもそのダイオキシン類組成の特徴が水路の汚染と一致したということは、ある意味で幸運であったと言える。他方、このような明瞭な結果を得ることができたのは、大阪府の担当者の方々が、周辺企業に関する過去の操業状態について綿密に調査し、かつ立ち入り調査を強力に進めたという、熱意ある取り組みの結果であると確信する。この取り組みには敬意を表したい。
関連情報
大阪府の発表:三箇牧水路底質汚染に関する検討結果について
http://www.epcc.pref.osaka.jp/press/h19/0918_1/
底質対策専門部会について
http://www.epcc.pref.osaka.jp/shidou/chem/dxn/link/bukai04.html
三箇牧水路底質汚染に関する検討結果報告書
http://www.epcc.pref.osaka.jp/press/h19/0918_1/2.pdf