61.2007.04.03「松井三郎氏の中西準子氏に対する名誉毀損訴訟を検証する
(その11)一審判決:原告の請求をいずれも棄却」

続報をさぼっている内に、2月2日にこの名誉毀損訴訟は結審し、3月30日に一審判決が出ました。判決の申し渡しは一瞬で(裁判長が、以下の主文を読み上げただけ)、あっけなく終わりました。

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主文

1 本訴原告(反訴被告)の請求をいずれも棄却する。

2 本訴被告(反訴原告)の反訴請求を棄却する。

3 訴訟費用は,本訴反訴ともに,これを2分し,その1を本訴被告(反訴原告)の負担とし,その余を本訴原告(反訴被告)の負担とする。

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 本裁判の経緯を2年間ずっと傍聴してきた者としては、一言書かないわけにはいかない。

 まず結論として、本訴では名誉毀損に当たらないので棄却。反訴については、裁判に訴えたこと自体が不当とまでは言えないということで、棄却です。

 反訴は裁判テクニックの問題で、原告がかってに訴えを取り下げて逃げてしまうことを防ぐためだったので、こんなものだそうです。

 判決理由については、判決の全文が「環境ホルモン濫訴事件:中西応援団http://www.i-foe.org/」に掲載されていますので、そちらをご覧下さい。ここでは、判決文で注目すべき点と感想を書いておきます。

 

争点(1)(本件記事は原告の名誉を毀損するか)について

 判決文では、「本件各記載につき,原告は,事実を摘示するものであると主張し,被告は,意見ないし論評であると主張するが,名誉毀損は,問題とされる表現が,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価を低下させるものであれば,これが事実を摘示するものであるか,又は意見ないし論評を表明するものであるかを問わず,成立し得るものであるから,まず本件各記載から一般人が受ける印象及びこれが原告の社会的評価を低下させるかどうかについて検討する。」(下線は益永による)と述べ、一般人の立場に立って検証している。そして、中西準子の「雑感」がこれまでに発信してきた経緯や功績を考慮すると共に、当該記事は、一般論としてリスクコミュニケーションのあり方を議論する中で、一例として松井三郎氏の例が取り上げたにとどまるという認識を示している。また、「次はナノです」という記載には、一般的に言って、原告に対して否定的な評価を含むものではないとしている。さらに、「雑感」で批判の対象としているのは、あくまでプレゼンテーションの在り方であり、原告の研究者としての資質を批判したものではないという認識を示している。

 

 これら判決での認識は、真っ当なものであると感じる。特に、雑感のこれまでの経緯を評価し、問題とされた記事もその一連の意見公表の中のものであり、かつ、一般論としての専門家の在り方を述べた中での一事例であり、特に個人攻撃を意図したのでは無いという解釈がなされた点は、妥当であろう。

 

 裁判の中では、当初、松井三郎氏がシンポジウムのプレゼンテーションの中でナノ粒子の問題についても説明したと主張して来たが、録音テープが証拠として提出されたことにより、実際にはほとんど説明せず新聞記事を示しただけにとどまっていたことが明らかになった。そういう事態の変化にもかかわらず、松井氏と代理人が主張を変えることなく、松井氏に対する証人尋問でも、プレゼンテーションで示した図を良く見れば、専門家ならナノ粒子の問題は理解できたはずとの主張を続けたのは印象的であった。このような原告側の不誠実な主張が採用されなかったのは当然と思われる。

 

 さて、このような裁判は一審で終わるより控訴審に進む例が多とのことである。しかし、本件については徒労な裁判がさらにつづくことのないことを節に祈る。