68.2008.12.03「「リスク社会論」で天羽優子さんに特別講義をお願いした」

 

私の所属する「環境リスクマネジメント専攻」には「リスク社会論」という講義があり、私を含む3名の教員が分担で担当している。この講義は新専攻の設立に際し、リスクの適切なマネジメントには理工学的な取り組みだけでは十分でなく、社会学的な観点が不可欠ということで設置されたものである。私自身はこれまで理工的なリスク評価に係わってきており、社会学的なリスクは専門外であったが、勉強しつつ講義内容を作ってきた。今年もいくつか新しい試みを取り入れた。

 一つは、化学物質に対するリスクの認識について、リスク認識研究で著名なPaul Slovicらが行ったアンケート調査を和訳して受講生にも答えてもらった(留学生には、英語の原文利用)。受講生は二十数名なので、Slovicらが米国で得た結果とはかなり異なるだろうと予想していたが、意外に類似した結果を得たことに驚いている。結果は、今週の講義で報告することになる。

 もう一つは、外部講師として山形大学の天羽優子准教授に1コマの講義をお願いした。天羽さんは、ご専門の水などの液体物性に関する研究のほか、科学リテラシーに関して自ら社会に向けた発信を数多くなさっている。そこで、今回は科学リテラシーを念頭に「ニセ科学と偽リスク」と題する講義をしていただいた。講義の中身を少しだけ紹介する。なお、以下のメモは著者の記憶によるメモで、天羽さんの確認を得たものでないことをお断りしておく。

・科学の装い、危険性(偽リスク)をおあり、商品を買わせる手口の事例の紹介:

       マイナスイオン、浄水、節電装置、など

・なぜウソを信じてしまうのか?

  人は信じたがる脳を持つ

    関連を認める(因果関係で無くても)と信じる。信じる方が楽。

    最初の思いこみと一致する情報を重視する。

    新しいことを信じる方が、信じていたことを変えるより容易。

・ニセ科学が広まるわけ:

  科  学:理解が難しい(メカニズムが複雑)。

  ニセ科学:理解した気分にさせる(因果関係説明は(途中のメカニズムがなく)明快)。

  ・ニセ科学氾濫

    ネットで検索すると、ニセ科学が圧倒的に多いことがある。

    サイトを・・・.co.jp、・・・.ac.jp、・・・.go.jpなどに限ると全く異なる検索結果になる。

  ・マスコミの番組製作

    ウソにならなければ良い。

    原因解明されていないのだから、・・・が原因かもしれないという番組が作れる。

    科学的に解明されていない方が都合が良い。見る人に夢を与える方が良い。

     (楽なダイエット法はない → 手に入れられる物でできるかもしれない。)

    夢を語るなら、科学を装うべきではない。

・対処法:

  あわてて飛びつかなくても損はしない。

    本当なら広がって、その内お買い得な値段になる。ウソなら廃れる。

  危ないと言われたら、どの程度かと聞く。

・ニセ科学と戦うとき:

  前提となるニセ科学部分で争うな。科学的に決着をつけにくい。

  製品性能について批判せよ。これはいざとなれば証明できる。

  勝てる範囲で書く。

科学研究役割は、人々に真実を与えること。そして、人々の科学リテラシーを高めること。

最後に天羽さんの現在抱えている訴訟についての解説を簡単にしていただいた。重要な観点を含む訴訟だと感じたが、短くまとめると誤解を与えそうなので、ここでの紹介は控えることにする。

 終了後、興味深い講義だったという感想が数多く寄せられました。天羽先生、遠くからのご出講、大変ありがとうございました。