83.-2012.06.13「放医研訪問」
6月11日に産総研
安全科学研究部門の方々が放射線医学総合研究所を訪ねるのに同行させていただいた。訪問先は稲毛駅の放医研本所で、横浜から横須賀線で向かったが、新日本橋駅で人身事故があり、乗った電車は東京までの運転になるとのアナウンス。仕方なく、品川で山手線に乗り換えて、秋葉原から総武線に乗り換えることにする。しかしまたしても、神田駅で人身事故があり、東京駅で運転停止となった。京浜東北線、中央線も同時に運転停止になり、やむなく、地下鉄でお茶の水へ向かい、総武線に乗り換えた。こんなに相次いで途上で事故が起こるという経験は初めてだ。それでも早めに出かけていたので、稲毛駅では待ち合わせの時間(12:45)に間に合った。
放医研では最初にDVD映像での研究所紹介があり、その後、重粒子線棟、緊急被ばく医療施設、低線量影響実験棟を見せていただいた。
重粒子線がん治療装置(HIMAC)は世界で初めての医療専用の加速器だそうで、主に炭素線を用いたがん治療が行われている。重粒子線の医療利用は日本が世界に先駆けしたもので、γ線治療が体内へ入ってからの減衰が大きく、体の表層や患部の後ろの正常細胞に対して悪影響が起こるのに比べて、重粒子線はエネルギーを調整して深部の患部で作用させることができ、副作用の少ない治療ができるそうである。臨床試験を超え、いわゆる先進医療として料金を取っての治療が開始されている。特に骨のがんには予想を超える治療効果が見られているとのことであった。
緊急被ばく医療施設は、被ばく患者を受け入れる施設で、患者が搬入される場所での被ばくチェック、除染などの施設を見せていただいた。いままで、実際の患者の受入は、1999年のJCO臨界事故、そして、福島第一原発事故でケガをした作業者の場合だけで、通常は、教育訓練施設となっているとのことである。
低線量影響実験棟には1万匹のマウスと3千匹のラットが飼育されているとのことで、放射線影響を見るための組織標本が作成過程など、熟練研究者の手際の良い作業風景を見せていただいた。動物実験ができなくなっている状況(動物愛護)に鑑みて、今やっている実験動物の組織を低温保存し、将来は、世界の研究者に提供することを考えているとのことであり、国際的な拠点としての発展が期待されると共に、継続的に研究を行う機関が存在することの重要性を感じた。
その後、放射線影響研究グループの方々と会議室で議論をした。島田博士からは冒頭に、福島第一原発事故の対応の経験談があった。福島の人にリスクの程度を理解してもらうことが本当に難しかったこと。事故直後の頃、放射線の専門でもない学者が1 mSVでも危険だというような発言をし、それをマスコミが大きく取り上げたこともあり、不必要な恐怖により、無駄な転居、あるいは、一家離散になっている家族が多数あること。そして、いったんそういった情報がインプットされると、考えを変えてもらうのは至難だということ。また、話している相手がだれかを意識する必要がある。これまで電気を享受してきておきながら福島以外のがれきさえも受入に反対する市民と、福島で放射線の恐怖にさらされている人では、伝えるべきことも違ってくる。NHKのようにどこの誰に向かって話しているのか分からないところでの発言は、後になっては控えるようにしたということである。さらに、その程度の放射線では心配はないと言えば、御用学者のレッテルを貼られ、バッシングを受ける。それを同僚の研究者が支えてくれない。傍観者になっているということも言われた。
続いて、産総研の中西フェローが化学物質の環境リスク評価に取り組んできた経緯をプレゼンし、放射線のリスク評価についていろいろな質疑を交換した。
化学物質によるがんと放射線によるがんは区別がつくのか(遺伝子の損傷の様相の違いで区別がつく場合があるかもしれない)。放射線と化学物質の相乗作用はあるのか(そのようなケースは見つかっている)。など興味ある議論があった。しかし、放射線のリスク評価についてはICRPの見解以上の説明はなかったように感じた。
夕方6時過ぎまでなごやかな議論が続き、大変有意義な訪問であった。お世話に大勢の放医研の皆様に感謝します。