化学物質と環境に関係する研究に幅広く取り組んでいる。具体的には、環境汚染の実態解明、汚染原因の特定、汚染の広がりや将来予測、人や生物へのリスク評価、そして、対策効果のリスク便益に関する研究などである。
本研究室の特徴は、単に環境汚染をモニタリングするだけでなく、その結果を解析して、化学物質の環境挙動の機構を明らかにしたり、汚染の原因を特定したり、あるいは、人や生物への影響をリスクとして定量的に評価するなど、化学物質の汚染のシミュレーション、将来予測、あるいは、管理に役立つ情報に加工する環境科学的手法の開発を積極的に進めている点である。研究室の成果はわが国においても広く認められている(参照:研究成果、新聞報道、社会貢献)。
研究の土台となる環境モニタリングのための研究設備として、液体クロマトグラフ−質量分析装置(LC-MS/MS)、ガスクロマトグラフ−高分解能質量分析装置(HRGC-HRMS)、誘導プラズマ−質量分析装置(ICP-MS)などを有し、多様な有機汚染物質や重金属類の極微量分析を実施できる。また、その試料の前処理として高速溶媒抽出装置、自動ソックスレー抽出装置、多検体濃縮装置なども保有している。
このような調査や実験を中心とした研究の他、近年は、リスク評価、リスク−便益評価などを中心とした研究にも積極的に取り組んでいる。よって、学生の希望によって、実験調査を中心としてデータを自分で取得してそれについて解析を進める研究テーマを選ぶことも、文献・資料調査、聞き取り・見学調査によってデータを収集し、それを解析・評価することを中心とした研究テーマを選ぶことも可能である。
現在実施中テーマとして以下のようなものがある(2008〜2009年頃)。
残留性汚染物質(POPs)や新規汚染物質の環境挙動と影響評価
汚染原因の解明に関する研究
環境汚染対策を立てるには原因の特定が不可欠である。また、汚染の修復費用の負担には汚染原因者の特定が必要となる。ダイオキシンやPCBには数多くの同属体、異性体が存在する。このような多数の化合物群による環境汚染では、その組成情報を用いて汚染原因を特定していくことが可能な場合がある。本研究室では、既にダイオキシン類による汚染は、日本全体としては、過去に使用された農薬類に不純物として含まれていたダイオキシン類の影響が大きいことを解明した。このような発生源解析手法の高度化と現場への適用を目指している。
東アジア地域を対象とした広域大気中POPs汚染と汚染源に関する研究
パッシブ大気サンプラーを利用して日本、中国、韓国の研究機関の協力を得て、東アジアの残留性有機汚染物質(POPs)の汚染実態調査を行っている。この結果から汚染源や輸送の実態の解明を目指している。
フッ素系有機化合物(ペルフルオロ化合物)の環境挙動と汚染原因の解析
ペルフルオロ化合物(PFCs)は化学的安定性、撥水性、撥油性、界面活性など特徴ある性質を有し、日常製品、半導体製造、泡消化剤など多様な用途に使用されてきたが、地球規模で汚染が進行していることが判明し、その規制が議論されている。しかし、その汚染源や汚染機構については未解明な側面が多い。本研究室では、PFCsの非点源汚染実態の解明等に取り組んでいる。
大気汚染物質に関する研究
大気中浮遊粒子状物質(SPM、PM2.5)の挙動と汚染源に関する研究
浮遊粒子状物質(SPM)や、その粒径が2.5 μm以下のPM2.5は肺の奥まで侵入することから人の呼吸器系への影響が大きいことが懸念されている。しかし、日本ではその調査は必ずしも進んでいない。そこで、SPMやPM2.5に含まれる重金属、イオン、炭素などを詳細に分析し、その発生源別寄与の割合の解明を目指している。
大気中揮発性有機化合物(VOC)の挙動と汚染源に関する研究
工業や交通から放出される大気中揮発性有機化合物(VOC)の測定し、その化合物組成に基づいた汚染源解析を試みている。
リスク評価、リスク−便益評価、環境情報基盤に関する研究
化学物質のライフサイクルリスク評価
化学物質に関して、生産、加工、使用、廃棄というマテリアルフローを明らかにし、そのライフサイクルを通した環境への放出、曝露、そしてリスクの評価を実施する情報基盤を整備することを目指した研究を行っている。事例研究として難燃剤やフッ素系化学物質を対象として研究を行っている。
難燃剤のリスク−便益評価に関する研究
臭素系難燃剤はその健康影響が懸念され、世界的に使用規制が進んでいる。例えば、臭素化ジフェニルエーテルは低臭素化体が禁止されてきている。しかし、難燃剤は火災の予防により人命や財産に対するリスクを提言している。本研究では、これらの間でのリスク−便益やリスク−トレードオフに焦点をあて、禁止措置の妥当性を検証する。
GISを用いた流域環境管理に関する研究
人為活動や環境対策が河川水質にどのような影響を与えているかを、調査と地理情報システム(GIS)を用いた面的な人為活動の評価によって解析を進めている。この解析により、詳細の河川水質や対策効果の予測が可能になると期待される。
魚食のリスクと便益評価
魚はメチル水銀や残留性有機汚染物質を含有し、健康リスクが指摘されている。他方、魚は不飽和脂肪酸を含み、心臓病などの予防効果があるとされる。悪影響は胎児への影響であり、便益は高齢者が受けることを考慮しつつ、健康影響・効果を同一の尺度で評価することを試み、より有利な魚食形態のアドバイスを目指している。
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過去の研究テーマ(一端終了したテーマ)の一部
環境ストレッサーの魚類への影響の評価に関する研究
水系におけるエストロゲン(女性ホルモン)活性物質の存在に関する研究
環境における医薬品や畜産用薬剤の存在と影響(耐性菌)に関する研究
トリブチルスズ化合物(TBT)の環境中での挙動の解明
ダイオキシン類などによる汚染が野生生物に与える生態リスク評価に関する研究
ダイオキシン様毒性のバイオアッセイによる検出と評価に関する研究
PCB代謝物の存在と影響に関する研究
東アジア圏における水銀などの金属の排出と挙動に関する研究
大気中に微粒子と共に存在する非意図的に生成・放出された汚染物質の挙動と影響に関する研究
ダイオキシン類の湖沼への流入と堆積に関する研究
残留性汚染物質による世界的な野生生物汚染に関する研究
野生鳥類(カワウ等)におけるダイオキシン汚染と影響の研究
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