5.ー2002.11.21「ダイオキシン類などに関する研究情報データを掲載します」

本研究室ではこれまでダイオキシン類などの化学物質による環境汚染モニタリング結果に基づいて発生源別の汚染寄与などを推定し、現状把握と対策立案に役立つ情報へとして加工してきました。これらの元になった詳細なデータについて、既に論文などで発表している分を順次研究データベースとしてホームページ上に掲載していきます。
今日の掲載は、農薬中の詳細なダイオキシン組成データです。

リンク->「研究情報データベース」

4.ー2002.11.18「環境対策のためのちょっとした仕組み」

アイルランドのレジ袋課税

アイルランドではプラスチック・ショッピング・バッグ(レジ袋)に対する3月からの新しい国の課税によって、多くの人が耐久性のバッグを使うようになった。課税は袋1枚当たり20円程度。これにより店で使われるレジ袋が約90%減り、約350万ユーロが国の環境ファンドに入った。ファンドは廃棄物管理プロジェクトや他の環境対策に使われるそうだ。

 控えめの推定では、この課税が導入される前に消費されていたプラスチックレジ袋の消費は12億枚/年(一人当たりにすると325枚/年)だそうで、一人が一日に約1枚ということだ。

 英国政府もこの成果を見て導入の検討に入ったらしい。ちょっとした仕組みでも効果は絶大だ。市民の意識改革にもなる。規制や禁止ではない柔軟な仕組みや工夫が、省エネや省資源のためにもっと導入されるといい。

 

3.ー2002.11.06「人の遺伝子組み換え論議」

子供を設計できる時代
 World Watch誌の15巻4号(ワールド・ウォッチ日本語版:ワールド ウォッチ ジャパン発行)はヒトの遺伝子組み換え特集であった。ヒトの遺伝子組み換えに対して反対や懐疑的な論調が並んでいる。賛成論の掲載はないが、遺伝病の出生前の治療などができる可能性があるようだ。さらに進めれば、自分の子供は目の色は青、髪は黒、身長は180cm、知能指数は、、、などと指定できる、子供を設計できる社会の到来ということになる。もちろん、胎児の検査結果で出産を思い止まるという消極的な子供の選択は既に行われているのだが。

人の遺伝子組み換えと優生学
 人の遺伝子組み換えは何が問題なのだろうか。組み換えた人間なんて自然ではない(自分の遺伝子を引き継いでいない子供と親子と言えるか。ちょっと問題発言だが。)という、われわれにとって根本的な違和感がある。それ以外に何が問題か。反対意見の多くの論調として出てくるのは、優生学の復活にならないかということのようだ。遺伝子組み換えによって優越した能力を持つ階層とそうでない階層に分かれていくおそれだ。

医薬品の開発に見られる矛盾
 
同特集の中のPat Mooneyの製薬業界に関する議論を読むと、市場を相手にする科学開発の矛盾が述べられている。すなわち、製薬業界の顧客は病人であるが、病人は元気になれば薬を買わなくなる。治らない場合は経済的な余裕のない状態の追い込まれ、結局薬を買えなくなる。従って、製薬業界は1970年代から健康な人々を相手に、買い続けてもらえる薬、健康な人をより健康にする薬を開発し始めたという訳である。元気回復薬、ダイエット薬、痛み止め、眠気覚まし(覚醒剤)、などのことだろう。脂肪の吸収を抑えて、たくさん食べられるようにする薬の開発には忙しいが、栄養不良で苦しんでいる途上国の要求を満たすような薬品の開発(マラリアや熱病など)には、高い薬の購買力がないことから、開発には力が入らない。同様に、遺伝子組み換えも富める者のためになってしまうだろうというわけだ。そして、富める優秀な(?)支配階級と組み換えができない階級に分かれる。SF小説のようだが。

遺伝子組み換え作物でも
 このことは遺伝子組み換え作物では既に現実のことだ。すなわち、遺伝子組み換え作物が高収量や害虫耐性などを実現して、途上国の食料不足の解決策になる可能性があるとされる一方、現実にはそれが実際に生かされているのは、むしろ先進国である。そして、企業は種子の支配を目指していると見られている。すなわち、収穫した種子は使えないように細工し、毎年種子を買わなければ成らなくするという戦略である。

研究を止められるか
 人遺伝子組み換えのように、まだその可能性もリスクもはっきりしない研究を今後進めるか否かは評価が大変困難であり、研究を止めるとすれば、倫理的な面を根拠にした予防原則によるしかないだろう。実際、World Watch誌の中には人遺伝子組み換え研究の制限が必要とし、それに反する異端科学者は犯罪者として扱うべきという主張もあった。しかし、世界の国々で統一した制限基準が設定できる環境でない以上、事実上研究の制限は困難だろう。核開発に対するような国際対応ができるかと言うことになる。
 人の遺伝子まで改変することに賛成する訳にはいかないと私は考えている。しかし、人間の欲求と好奇心、そして、富を得ようとする企業家がいる限り、ある分野に限定するとしても科学の発達を止めることは至難に見える。

格差を減らす
 十数年前コンピュータがまだ高価でLANのある研究施設が限られていた時代、多額の研究費を持つ研究者とそうでない研究者にさらに大きな格差ができてしまうと言った同僚の研究者がいた。その後の情報技術の発達により、ネット接続は個人でも可能になり、むしろ、研究費の差によって獲得できる情報量の差は縮まったように思える。科学の発達が差別でなく、平等へ向かうよう誘導することは最低必要なことだろう。

 

2.−2002.10.30「PCB廃棄物処理施設の建設に向かう現状」

環境事業団が処理施設を建設  

 「ポリ塩化ビフェニル(PCB)廃棄物の適正な処理に関する特別措置法」に基づき、PCB廃棄物の処理が進もうとしている。PCB保有事業者は15年後(平成28年)までに処理を完了する義務を負うことになったが、まだPCBの処理を請け負う業者はない。自社保管のPCBの分解処理を実行している事業者が数社ある程度である。このような状況で、環境省は環境事業団に処理施設の設置を指導した。そして、北九州市、豊田市、東京都などが処理施設の立地の受け入れを表明している。

 環境事業団ではポリ塩化ビフェニル廃棄物処理事業検討委員会を作り、処理方式や安全確保に関して検討を行っている(http://www.jec.go.jp/pcbtop.htm)。私もメンバーなので、その状況について報告する。

焼却処理は最初から検討対象外に

 この検討会の前身として、PCB処理技術懇談会議というのがあり、その中で、処理方法としては化学処理を採用するという方向でどんどん議事が進む様子であったことから、「処理方法としてはそれが周辺住民に受け入れられるか否かは別として、委員会では技術的な側面から化学処理だけでなく、焼却なども含めて評価すべきである。将来、なぜより適する方法があったのに最初から議論の対象にしなかったのかと指摘されることになりかねない」と発言し、焼却なども含めて技術評価をすべきだと主張した(H13.9.7)。しかし、これに関する回答は、北九州が化学処理で受け入れるとの表明をしていることなどから、焼却は検討会への諮問に含まれていないというような回答であった。この検討会は、北九州事業に限る検討ということで納得せざるをえなかった。

北九州事業(第一期)における高圧トランス・コンデンサーの処理法

 北九州第一期事業の対象は高圧トランス・コンデンサーで、その前処理は、溶媒洗浄と真空加熱分離(真空にして加熱することでPCBを揮発させ、その後凝縮させて分離する)を組み合わせることになった。洗浄だけではPCB卒業基準を満足できない場合に真空加熱分離を行うということである。真空加熱分離はタールなど処理困難物が生じるため、できるだけ限られる部分で利用するということである。分離した液状PCBの処理としては、脱塩素化分解あるいは光分解法を採用することとした。これらは比較的常温・常圧に近い処理方法であるためである。総括すれば、最初の処理施設なので、事故や漏洩が起こり難く、地元に受け入れられ安い処理方法を採用するということである。

安定器の処理も化学処理に

 その後、技術部会で安定器の処理方法が検討された。「PCB使用安定器の処理について」(http://www.jec.go.jp/p-htm/p-topic7.htm)がその報告書である。ここでも焼却はまともに検討対象に取り上げられなかった様子だ。理由はよく分からないが、焼却処理を技術評価の対象として応募してくる企業がほとんどないことも原因のひとつのようだ。安定器も洗浄と真空加熱分離が推奨技術となっており、高圧トランス・コンデンサーとあまり変わらない処理方式が採用されている。

PCB除去の前処理+PCB廃液の化学処理」は二重の処理になる可能性

高圧トランスや高圧コンデンサーは大きな金属容器に液状PCBが多量に入っている。これに対し、安定器(蛍光灯に使われた)は小さいく、PCBで汚染された部材も相対的に大きな体積を占める事になる。真空加熱分離した後の個体の残差も処分しなければならないので、結局焼却される可能性が高い。部材をPCB廃棄物でないとしてよい基準(卒業基準)以下に濃度を一度下げてから結局焼却などの処理をするわけで、最初から全体を、あるいは、液状PCBだけ除去してから焼却することは、効率的な処理方式だと考えられる。PCBの焼却処理は技術的に可能であり、適切な運転管理をすれば周辺を汚染するリスクは十分低くできる。

東京事業も化学処理を要求

 北九州に続いて、東京都に計画されている施設では安定器の処理が計画されている。しかし、東京都の受け入れ条件には化学処理の採用がまたしても含まれ、技術の選択範囲は狭められてしまった。焼却は排ガスが多量にでるため、納得が得られないという。

 こうして、15年以内に処理という期限を背負ってPCB処理を円滑に進めるためには、周辺住民などの説得している時間はない、事故などで周辺汚染したという事例がでれば、全部が止まってしまという恐れを背景に、高価な二重処理が次々に行われることになりそうである。

過剰な処理→処理コストの上昇(資源の浪費)→迅速な処理も困難に

処理施設を受け入れる地元はコスト負担するわけでない。環境事業団も厳しいコスト意識は希薄だ。コスト削減へのインセンティブは低い。すでに、化学処理に多大な研究費を費やしたであろう企業が安くて済むだろう焼却を代替案として押し出す可能性も低い。こうして、PCB処理コストはつり上がり、PCB保有事業者が処理委託費を負担することは益々困難になるだろう。ということは結局PCB処理が迅速に進まないということだ。

安全性確保に本当に必須かが疑問な処理システムの採用は、資源とエネルギーの無駄使いとなり(結局、税金の無駄使いにつながって行くだろう)、将来を見通したときには処理の円滑的な推進にもつながらないだろう。  

関連記事

コプラナーPCB問題に答える −コプラナーPCB汚染の起源を推論する− (1999.11.16)

 

1.−2002.10.23「農薬の中のダイオキシン(Update)」

 廃棄物学会誌の最新号(135号)の「特集:残留性化学物質」に「農薬のダイオキシン不純物」と題する総説を書いた。私どもの研究室では1999年初めにクロロフェノール(PCP)やクロロニトロフェン(CNP)などの農薬中のダイオキシン濃度を報告したが、その後の報告も取り入れて議論を展開したものである。その後の報告とは農林水産省が20024月に発表したものと、三井化学がやはり同日に発表したデータである。農水省はPCPCNPPCNBMCPTNP2,4-PA(=2,4-D)などの測定値を報告している。PCPCNPPCNBの3種以外は全てNDである。三井化学は同社の製品であるCNPのみを多数測定している。

 PCPCNPについては当研究室のデータと農水省のデータは驚くほど似ていた。ここで似ているという内容は、値は非常にばらついているが最大と最小の範囲がほぼ一致しているということである。

 PCPについては、新しいデータを加えても平均的には以前にわれわれが推定した全国での総ダイオキシン放出量の値はほとんど変わらなかった(220 kg TEQ)。

 CNPについては、三井化学が非常に多くの分析結果を出してきた。最高値は我々や農水省よりやや低めだが、全体としては変わりがない。CNPについては、我々が年次的にダイオキシン含量が減っていると指摘した。これに関する三井化学の説明を伺ったが、他社の製品であるNIPの含有量を下げるためにいろいろな手を打った結果、ダイオキシン含量も下がったというものである。(CNPNIPにさらに一つ塩素が入った化合物である。そこで、不純物としてNIPを含有することになる。これが権利の侵害だと訴えられていた。また、NIPは発がん性が指摘されたので、含有量を下げる必要があった。)どうやら、打った手の内の一つがダイオキシン含量を大きく下げる効果があったようで、1982年以前と以後でダイオキシン含量(TEQ値)にギャップが見られている(下図)。このメーカーの説明が本当として、1982年前とそれ以降に分けて平均値を求めて、CNPからのダイオキシン環境放出量を推定した場合、以前に我々が行った推定に比べて放出量は半分程度になった(210 kg TEQ)。

 結論として、我々の数少ない分析例によって推定した値は、新しいデータを加えた再計算でもそれほど大きな違いはなかったと言って良いだろう。

 さて、今回新しく報告されたデータであるが、農水省も三井化学も毒性等価係数のある2,3,7,8-塩素置換体17種とコプラナPCB12種のみを報告している。確かに農薬のダイオキシン基準にはこれら異性体しか規定されていない。しかし、農薬にはそれに特徴的なダイオキシン異性体が存在する。CNP1,3,6,8-TCDD1,3,7,9-TCDDがそれである。また、ダイオキシン総濃度も知りたいところである。もう少し、将来の環境汚染の解析に役立つようなデータの取り方が考えられないものだろうか。

       (↓図をクッリックすると大きくなります。)

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CNP中ダイオキシン騒動 顛末記 (1999.7.14)